経緯説明

◎事件の背景

  「ロボスクエア」とは福岡市が出資するロボット体験施設。

 この施設に平成15年4月から平成20年3月まで勤務し、常駐する唯一の職員だった福岡市元職員が引き起こした事件が 『ロボスクエア事件』である。

 立件されたのは「詐欺事件」と「贈収賄事件」だが、その他にもずさん経理や平成19年に移転した際の移転先選定・移転費用など様々な疑惑が発覚し、地元の報道で大きく取り上げられた。

 

 平成14年7月 ロボスクエアが福岡市博多区「博多リバレイン」内に開設。

 平成15年4月 元職員がロボスクエアに着任。

 平成19年7月 ロボスクエアが福岡市早良区「TNC会館」へ移転。

 平成20年4月 元職員の異動後、新たな職員着任によりずさん経理が発覚。

 平成21年2月 元職員は停職3ヶ月の懲戒処分を受け福岡市を辞職。

 平成22年4月26日 元職員はロボスクエアを巡る詐欺事件で逮捕。

 

 詐欺事件の概要は、平成17年に行われたロボット大会の運営業務を別の会社に委託したように装い、大会運営委員会から委託費約220万円をだまし取ったとされている。元職員は合計9大会(立件されたのは2大会)で詐取を行ったことを認めた。 

 

 元職員は詐欺事件の取調べ中「永末らからパソコンをもらった」と収賄の事実を自供。パソコンと保証書の一部が、元職員やその家族宅から発見されたことにより、福岡県警及び福岡地検は贈収賄事件として着手した。

 

 平成22年5月31日 永末氏らの事情聴取が開始。

 平成22年6月3日  永末氏及び永末氏の上司であった部長が贈賄罪で逮捕。

 平成22年6月24日 二人は否認したまま起訴され、約7ヶ月間勾留された。 

 

◎裁判

 元職員は収賄を認め、永末氏らは贈賄を否認したため、裁判は別々に審理が行われた。

 平成23年2月4日 福岡地裁 駒田秀和裁判官は元職員に対し詐欺罪と収賄罪を合わせ、懲役3年 執行猶予5年 追徴金約307万円の判決を言い渡し、有罪が確定した。

 平成23年3月29日 永末氏らの公判が始まり、17回にわたって行われた。 

 

◎争点

 永末氏らの裁判は事前に公判前整理手続きが行われ、争点が絞りこまれた上で審理が行われた。

 起訴状では、「永末と上司であった部長は、平成20年3月頃、ロボスクエアにおけるパソコンやコピー機のリース契約(賃貸借契約)に関し、契約期間を従来よりも長期のものとするなど有利な取り計らいを受けたい趣旨のもとに、パソコン4台(約158万円相当)を、契約業務などを担当していた元福岡市職員に渡した」とされている。

 「ロボスクエアに納入したパソコン4台の型式が契約書に(一部)記載されておらず、元職員が自宅などで個人的に使用していた」という争うことのない事実に関し、そのパソコンが「賄賂」として渡されたのかどうかが争われた。

 パソコン4台が契約書に記載されていないことを検察側は「賄賂だから載せなかった」と主張。

 永末氏らは「他のパソコンと一緒に納入する際、元職員から『4台は契約書に記載しないで』と言われた。今までにも役所の都合で契約書に載せないよう頼まれることはよくあるので、言われた通りにした」と説明し「会社の記録には正しい納入記録があり、賄賂ではなく通常の取引で納入しただけだ」と主張した。

 検察の立証の柱は元職員の供述である。しかし元職員の供述は、贈収賄事件において重要とされる賄賂パソコンの受け渡し場所について、捜査段階では「自宅」、公判では「ロボスクエア事務局」と変遷しており、供述の信用性が争われた。

 また、便宜供与について、検察側は「複数年契約は業者にとって有利な契約」と主張。

 しかし、弁護側は以前から実質的には複数年であったものの、市の規定上、同じ契約内容を毎年更新する単年契約だった。条例改正により実質通りの複数年契約ができるようになっただけで、有利にはあたらない」と主張した。

 

 ◎1審判決

 平成24年4月27日、福岡地裁 江口和伸裁判官は、永末氏らに懲役1年6月執行猶予3年を言い渡した。

 判決理由で、収賄罪が確定している元職員の公判供述について「相応に具体的で客観的事実とも符合する」として信用できると認定。

 元職員のパソコン受け取り場所の変遷については、「犯行日から2年以上経過し、捜査段階では記憶が曖昧な中で供述しており変遷には理由がある」と述べた。

 永末氏らが「パソコンは通常の取引で納入しただけである」と無罪を主張したことについては、「賄賂のパソコンを契約書に記載しなかった理由について、永末の供述は不自然」として退けた。

 便宜供与については、「複数年契約が有利なのかは明らかでなく認定できないが、動機としては契約を続けてもらうためという趣旨で十分だ」と述べた。

 永末氏らは即日控訴。

 

 ◎控訴審判決

 平成24年12月21日、福岡高裁 古田浩裁判長は、懲役1年6月執行猶予3年とした1審判決を支持し、永末氏らの控訴を棄却した。

 古田浩裁判長は、収賄罪が確定している元職員の証言などを基に有罪とした一審判決について「事実の誤認はない」と述べた。

 永末氏らは上告。

 

 ◎最高裁判決

 平成26年2月26日、最高裁第3小法廷(大橋正春裁判長、岡部喜代子、大谷剛彦、寺田逸郎、木内道祥)は、永末氏らの上告を棄却。控訴審判決を維持し、刑が確定した。